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東京地方裁判所 昭和51年(むのイ)1105号 決定

主文

右の者に対する頭書被告事件について、昭和五一年一一月二二日東京地方裁判所裁判官がした保釈請求却下の裁判を取り消す。

被告人に対し、左記保証金額と条件により、保釈を許可する。

保証金額と指定条件

(保証金額)

金一七〇万円

(指定条件)

一、被告人は、肩書住居地

に居住しなければならない。

右住居を変更する必要ができたときは、書面で裁判所に申し出て許可を受けなければならない。

二、召喚を受けたときは、必ず定められた日時に出頭しなければならない(出頭できない正当な理由があれば、前もつてその理由を明らかにして、届け出なければならない。)。

三、逃げかくれたり、証拠隠滅と思われるような行為をしてはならない。

四、三日以上の旅行をする場合には、前もつて、裁判所に申し出て許可を受けなければならない。

出監の上は、前記の指定条件を、誠実に守らなければならない。

もしこれに違反するときは、保釈を取り消され、保証金も没取されることがある。

申立の趣旨

主文第一項と同旨および被告人に対する保釈許可の裁判を求める。

申立理由の要旨

別紙(一)記載のとおり。

当裁判所の判断

別紙(二)記載のとおり。

適用した法令

刑訴法四三二条四二六条二項

(鬼塚賢太郎 谷川克 河邉義典)

別紙 (一)

本件は、刑訴法八九条六号の場合に該当しない。

別紙 (二)

一一件記録によれば、被告人は、昭和四九年六月ころから今日に至るまで、肩書住居を生活の本拠として同所に居住してきた事実が認められる。

二保釈請求に対する検察官の意見書および同書添付の東京入国管理事務所長作成の「退去強制該当容疑外国人の保釈申請について」と題する書面によれば、被告人は、現在、東京入国管理事務所において、出入国管理令(以下、「入管令」という。)二四条一号該当容疑者として退去強制手続中であり、仮に、保釈が許可された場合においては、入国管理事務所において、被告人を入国者収容所などの施設(以下、「収容所」という。)に収容したうえで、退去強制手続をすすめて行く意向であるという事実がうかがわれるところであり、原裁判も、この点を考慮して、本件保釈が刑訴法八九条六号に該当すると判断したものと考えられる。

三しかし、仮に、被告人が保釈を許可され、右のような収容所への収容手続がとられたとしても、この事実のみをもつて、被告人の住居が不定ないし不明になる訳ではないことは勿論であり、さらに、保釈中の被告人に対し、退去強制手続がすすめられ、退去強制令書が発付された場合においても、国家刑罰権の実現を尊重するという入管令六三条二項の趣旨などにかんがみると、刑事訴訟に関する法令の規定による手続が行なわれている場合には、係官において退去強制令書の執行に着手しても、本邦外への送還(入管令五二条三項)という最終段階の処置まではなしえないものと解するのが相当であるから、国外送還によつて住居が不明になるという事態は考慮する必要はない(なお、右送還をなしうると解するとしても、被告人が将来国外送還される可能性が存することをもつて、ただちに現段階において権利保釈の請求を却下する理由となしうるものではない。)。

また、退去強制令書が発付された後、被告人から入管令五二条四項に基づくいわゆる自費出国の申請がなされた場合には、その段階において、「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」(刑訴法九六条一項二号)が存在するとして保釈を取り消すことが可能である。

以上いずれの点からみても、現在の段階において、本件保釈が刑訴法八九条六号に該当する場合であるとは認められない。

四つぎに、被告人が保釈された後、退去強制手続がすすめられ、退去強制令書が発付された場合に、被告人を、判決確定に至るまで、ある程度の期間その自由を拘束して収容し続ける(入管令五二条五項)ことがあるからといつて、これをもつて、刑訴法上保釈を許可すべき事情にある被告人に対し、保釈を許さず勾留を継続する理由とすることは、とうてい許されないことである。また、保釈が許可された結果、係官において、事実上、仮放免せざるをえないとしても、元来逃亡のおそれは、保釈許可の際の保証金をもつて担保すべきことであり、仮放免にともなう逃亡のおそれがあるからといつて、本件を権利保釈にあたらないとすることはできない。

五その他、一件記録を精査しても、本件が刑訴法八九条六号に該当する場合であるとは認められず、また、現段階では「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の存在その他同条各号に該当する事由は認められない。

そこで、被告人の身上関係、本件事案の態様その他諸般の事情を考慮して、本文記載の保証金額と指定条件によつて保釈を許可するのが相当であり、本件申立は理由がある。

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